正直ではないワシントンの桜の木のお話し
アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンの伝記に子どもの頃にもらった手斧の試し切りがしたくて父親が大切にしていた桜の木を切ったことを正直に打ち明けて赦されたという「ワシントンの斧」という話があります。
この話はワシントンがこの世を去った1年後の1800年に初版が出版された「逸話で綴るワシントンの生涯」という本の中で「正直であること」の教訓として紹介された話です。ところがワシントンが幼少の頃にアメリカには桜の木はありませんでした。またこの本に「ワシントンの斧」は初版から掲載されていたわけではなく掲載されたのは1806年に第5版からでした。
この本の著者はマウントバーノン教区の牧師メーソン・ロック・ウィームズという人物ですが、ウィームズはワシントンが良いことをした美談を掲載すれば本の売上が伸びると考え「ワシントンの斧」の話を捏造しました。またバレーフォージ近くの森でワシントンが祈りを捧げ続けたという話もウィームズの捏造でした。
そもそも著者メーソン・ロック・ウィームズはワシントンの地所があったマウント=ヴァーノンの教区の牧師と自称していますが、これはワシントンとの関係を強調するためものでありマウント=ヴァーノン教区は実在していませんでした。
「ワシントンの斧」は教科書にも掲載されワシントンの2月22日の誕生日にはサクランボ料理で祝うイベントまで行われるようになりましたが、政治学者のウッドロウ・ウィルソンが1869年に出版した伝記「ジョージ・ワシントン」で作り話であることを指摘したことで捏造話であったことが広く知られるようになりました。しかしながら捏造にしてはあまりにも良い教訓話だったからでしょうか。今でも史実にように語り継がれているのです。
ワシントンに実の娘として育てられたエレノア・パーク・カスティス・ルイスは生涯をかけてワシントンの記録を残したり、ワシントンの逸話を訂正したことで有名です。なぜかルイスは「ワシントンの斧」を否定していません。
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