シーボルトが日本から追放｜シーボルト事件（1829年9月25日）

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　ドイツの医師フィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルトは植物学に関心をもちやがて東洋学研究を志すようになりました。1822年にオランダ国王ウィレム1世の侍医からの紹介で同年7月にオランダ領東インドの陸軍病院の外科少佐となりました。その後、オランダ領東インド総督に日本の研究の希望が認められ文政6年7月6日（1823年8月11日）に来日し出島のオランダ商館付きの医師となりました。シーボルトは出島で鳴滝塾を開き医学を教授しながら日本の博物調査を行いました。

ィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルト

　文政9年3月（1826年4月）、シーボルトはオランダ商館長の随行し江戸に赴き第11代将軍の徳川家斉に謁見しました。このときシーボルトは幕府の書物奉行兼天文方筆頭の高橋景保と出会い、景保が保管している伊能忠敬らが作製した日本全土の実測地図「大日本沿海輿地全図」（伊能図）に興味を持ちました。一方の景保は樺太の資料を収集しておりシーボルトの所有するロシア海軍提督クルーゼンシュテルンの航海記「世界周航記」に興味を持ちました。そこでシーボルトと景保は「大日本沿海輿地全図」の写しと「世界周航記」を交換しました。

　当時、江戸幕府は諸外国との外交を限定していましたが列強の異国船がしばしば現れるようになると文政8年（1825年）に日本沿岸に現れた外国船に対応する異国船打払令を出しました。また国防上の理由から日本全土の正確な地図の必要性が高まりました。幕府は伊能忠敬らが日本全土の測量に興味を持っていることを知ると、伊能忠敬の測量事業を支援しました。こうして文政4年7月10日（1821年8月7日）に完成したのが「大日本沿海輿地全図」です。江戸幕府は「大日本沿海輿地全図」を国外へ持ち出しすることを禁止していました。

　シーボルトは江戸で多くの資料を収集しましたが日本の北方の植物に興味を抱きました。文政9年6月（1826年7月）に江戸から出島に戻ったシーボルトは間宮林蔵が蝦夷地で採集した植物の標本に興味を持ち林蔵に書簡と贈答品を送りました。外国人との私的な贈答品の交換が禁じていたことから、林蔵は書簡を開封せず上司に渡しました。この書簡には様々なことが書かれており、高橋景保など多数の関係者が取り調べを受けることになり、「大日本沿海輿地全図」が景保からシーボルトの手に渡ったことが発覚しました。

間宮林蔵

　幕府は長崎奉行所にシーボルトが入手した「大日本沿海輿地全図」に押収するように命じました。シーボルトは尋問と家宅捜査を受けました。シーボルトは資料の収集は学問を目的するものと主張し、資料を提供した日本人には責任はなく、自分が日本に留まり人質になることを申し入れました。このシーボルトの申し入れに多くの日本人関係者がお咎めなしとなりましたが主要な人物は許されませんでした。

　景保は 文政12年2月16日〈1829年3月20日〉に獄死しましたが許されず塩漬けされたうえ死して死刑判決を受け斬首されました。その他50名以上が禁固刑など何らかの処罰を受けました。シーボルトはスパイの容疑をかけられ「大日本沿海輿地全図」没収のうえ国外追放および再渡航禁止とされました。

　シーボルトが出国したのは文政12年9月25日（1829年10月22日）です。このときシーボルトは「大日本沿海輿地全図」の写しの写しを密かに持ち出しています。1840年にオランダで「大日本沿海輿地全図」をもとに作られた日本地図が発行さました。安政5年（1858年）に日蘭修好通商条約が締結されるとシーボルトの再渡航禁止処分が解除されました。シーボルトは1859年に再来日し幕府の外交顧問となりました。

　なおシーボルトが入手した禁制品を載せた船が暴風雨で座礁し積み荷から「大日本沿海輿地全図」が見つかったという説が長らく信じられてきましたが現在は後生の創作であることが判明しています。

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