ガリレオは「それでも地球は動く」と呟いたのか(1633年6月22日)
ガリレオが天動説で裁判にかけられたのは1611年と1633年です。1611年の第1回目の裁判では天動説を仮説として唱えるのであれば許容範囲とされたという記録があり本当は無罪だったと考えられています。ガリレオが1632年に「天文対話」を発表すると、1633年に2回目の裁判にかけられました。このときに確証のない書類を証拠とされ第1回目の裁判も有罪とされ、第2回目の裁判も1633年6月22日に有罪の判決が下りました。ガリレオには無期刑が言い渡されましたが間もなく減刑となり軟禁処分になりました。命が脅かされることはありませんでしたが監視付きの家で軟禁され外出は許可されませんでした。
ガリレオが有罪となったときに「それでも地球は動く」と呟いたといエピソードがあります。実際にガリレオはイタリア語「E pur si muove」で呟いたされています。他人にわからないようにギリシア語で呟いたという説もありますがイタリア語で「E pur si muove」と同じことを呟いたとされています。
「E pur si muove」は直訳すると英語では「And yet it moves」で日本語では「それでもそれは動く」となります。ですからガリレオが言った言葉の「それ」は地球には間違いないのですが「それでも地球は動く」と呟いたわけではありません。そもそも第2回目の裁判の様子を鑑みるとガリレオが「E pur si muove」と呟いたとは考えにくく、この話は後付されたものという説が有力です。
この話が語られるようになったのはガリレオの1642年の死から115年後の1757年に文芸評論家のジュゼッペ・バレッティの著書「イタリアン・ライブラリー 」の著述によるものです。一方、裁判の記録にはこの言葉は残っていません。またガリレオが軟禁状態にあったときに助手を務めたヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニが1655年から1656年にかけて執筆したガリレオの伝記にも記載がありません。
1911年、ベルギーの美術品収集家ジュール・ファン・ベルが入手した絵画に「 E pur si muove 」という文字が描かれていることが判明しました。この絵画には1643年か1645年に描かれたもので軟禁されているガリレオと壁に太陽を周回する地球の図が描かれておりその図の下に「E pur si move」の文字がありました。絵画に署名はないもののファン・ベルは17世紀のスペインの画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョの作品と比定しました。この絵画の発見はガリレオが「E pur si muove」と呟いたことを裏付ける証拠とされましたが、間もなく所在が不明となりました。
ファン・ベルの絵画は画家オイゲン・ファン・マルデゲムが1837年の作品「刑務所のガリレオ」とそっくりであることが判明しています。つまり同じ絵が別に存在していたことがわかったのです。ファン・マルデゲムがファン・ベルの絵画を模倣したのか、あるいはファン・マルデゲムの作品を誰かが模写したものがファン・ベルの絵画となったか謎が深まりました。この謎を解くにはファン・ベルの絵を再発見するしかありませでした。
調査によってファン・ベルの絵は2007年に売却されていたこがわかり、このときファン・ベルの絵は19世紀に描かれたものと鑑定されていました。事実であればファン・ベルの絵は「E pur si muove」の話は1757年のバレッティの著書「イタリアン・ライブラリー 」によって広く知られるうになってから描かれた絵画と考えられます。
ガリレオが「それでも地球は動く」と呟いたいうのは伝承でしょう。しかし、事実が認められなかったことに対する警鐘として語り継がれていくでしょう。
この調査論文は2020年にMario Livio 氏がSCIENTIFIC AMERICANに投稿しています。
SCIENTIFIC AMERICAN
Did Galileo Truly Say, ‘And Yet It Moves’? A Modern Detective Story
An astrophysicist traces genealogy and art history to discover the origin of the famous motto
By Mario Livio on May 6, 2020
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