上杉鷹山に学ぶ再建の精神
今からおよそ 200年前の江戸時代に徳川幕府下の米沢藩主として、当時お家取り潰しと言われるほどに貧窮に喘いでいた藩の政治経済を再建し、奇跡的な繁栄をもたらした名君、上杉鷹山の言葉を紹介します。
上杉鷹山は15才の時、養子として上杉謙信より七代後の上杉家当主の座につきました。また上杉鷹山はかつての 米国大統領 J.F.ケネディが「最も尊敬する日本人政治家と言った人物でもあります。
当時の米沢藩は巨額の負債を抱えその返済のメドは全くありませんでした。家臣達からは半知借上げとして給料の半分を遅配し、農民も年貢を納めきれないという貧窮のどん底に喘いでいました。米沢藩は「死に体」になっておりその回復は絶望視されていました。
こんなところの藩主になった鷹山の前途はまさに多難でした。多額の費用がかかる名門の上杉家ゆかりの伝統行事も控えなければなりません。下の文章は藩政再建の方向づけを明確にするために、鷹山が自分の真情を「夏のタ」という一文にして重臣達に示し、彼らの決起を促したものです。
「およそ天下の事を開始するにあたっては、30目前からその理由などを十分検討しておき、それが開始されてからは、事実上変わってしまうことのないよう に30日ごとに調査と討議を反復し、一日たりとも中断しないことが必要である。このことを昔から『終わりて則ち始め有り』といっている。太陽の移り変わり、月の満ち欠け、寒暑の動きなどはすべて中断されることがない。従って、こ のように毎日検討することは天の行である。一つの問題を解決するためにはこのようにしなければならない。ものごとがある方向ヘ行くであろうと予想されれば、それに対してはこのように対策を立てるというふうに、配慮をしておくことが当然である。それをしないで、実質上問題が起こってから、あれこれと苦労しても、すでに効果はない。ことが進行しはじめてから努力してみても、その努力している中に、すでに失敗の要素が生じつつある。そんなわけであるから、対策として立てられた方法はいくらいいものであっても、その方法だけに任せておいて配慮や尽力をしなかったら決して成功するものではない。
当家の場合も格別の大倹約が実施され、出費はこれまでの半分とし年々3千 千両の予備費と、そのほかに不時の出費に備えて2千両を貯えるという方針が決定された。ところが、その3千両の方は、この9月までに確保される予定になっているものの、不時の備えとしての2千両は見通しが立っていない。また、借入金に対する返済予定は9千8百両のところ、去年家臣からの出金11千5 5百両をこれに当てているので、その分が減っていなければならないのに、現在高では逆に倍増 して1万両以上になっている。これはもってのほかのことである。長期借入金については30年の年賦返済を金主に頼んだが、これも去年の分はまだ返済されていない。予算だけはできたけれど実行がまるでできていない。
時節柄とはいいながら、先祖代々取り行ってきた諸行事も省けるだけ省き、家格を顧みず倹約につとめている。ことに家臣も貧乏に苦しんでいるところへ、さらに出金を命じて返済に当てることにした。ところがそれらの甲斐がないのは実に遺憾なことである。金主たちは、もともと彼らの利益のために当家ヘ金を貸したものではあるが、 その金によって、長年にわたって数々の難渋を凌ぎ、またこれによってしなければならない政策も実行することができたのだから、その返済をおろそかにすべきではない。
とはいえ、このように衰えていることなので、年々約束通りの返済は無理である。だが、その場、その場で、誠のない言葉で目先を凌いでいくよりは、真実をもって、可能な額を返済していくべきである。30年の年賦にしてくれるよう各金主に頼んだが、それをいまもって承知していない相手もある。それをいいことにして、去年払うと決めた分さえを払っていないことは、全く信義を失うものであり、恥辱の上の恥辱と言わざるを得ない。予算を立ててはじめからこれを破ろうと思っている者は一人もいないのだが、行き当たりばったりでいくために実行が全く伴わないのである。
予算を立ててから1年もならないのにこんな有様では5年先にはどうなることか。目先だけが何とかなっていれば、人間はとかく緩みがちになるものである。これは誰にでもあることだから、時々幹部には鞭を加えて、先に述べたように間断なく検討を反復させることが肝要である。
9千8百両の借金が1万両になってしまったことも、対応が不十分だったからである。数字上は予算通りにやっていれば、不時入用の2千両も貯えられたはずである。まずこの2千両を貯えるよう、即刻各担当者に通達すべきである。
その上で、今後は毎年1月1日に各担当者が月次予定を組み、その後前月の実績を精算して翌月の担当者に引き渡すようにせよ。月次予定通りにいかず、不時の出費があった時には全体会議を開いて、即時協議して対策を立てよ。こうすれば各担当者は緊張して努力するようになり、前月の実績が好ましくなければ、それは翌月の担当者が苦しむことになるので、協議も自然に真剣になり油断を戒めることにもなる。
現状のままで放っておけば、3年も経たないうちに予算は崩れてしまう。そうなったら、皆でこれほどまでに努力して決定してきた大倹約も、ただの空騒ぎしただけのことに終わって、少しも国の役には立たず、他から笑われるだけある。そのことを私は非常に恐れている。
今日、藩政の上では暴戻の君主もおられないし、専横な重臣もいない。家臣達はみんな真面目に勤めていて、賄賂なども全く行われていない。他に対して何一つ恥じることはないのに、財政だけが困難になっており、そのために満足な対策も立てられず、心ならずも不義理をしていることは実に嘆かわしいことである。
この上は、各幹部、責任者は財政を再建するために全力をあげ、月々年々、間断なく検討を尽くすようにせよ。そうすれば、必ず再建は可能であること違いない。」
こんなことを書いたそうです。鷹山がやってきたとき、米沢藩の古い家老達は再建は無理だと思っていました。あるとき鷹山は消えた囲炉裏の中をつついていたところ、まだ火がついている小さな灰のかけらを見つけました。灰のかけらを集めていたら、まだ燃えるはずなのに消えていた灰に火がうつり、そうして囲炉裏に火がよみがえったそうです。それを見て鷹山はあきらめムードの藩の中でやる気の火種になる人たちを見つけて火を大きくしていこうと決意したそうです。
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