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2021年11月22日 (月)

レーマーが光の速さは有限と発表(1676/11/22)

 光の速さは秒速約30万キロメートル、1秒で地球を7周半することができる速さです。光はあまりにも速いため昔の科学者たちは光は瞬時に伝わると考えていました。近世においても、光の屈折について考察し虹ができる仕組みを解き明かしたフランスのルネ・デカルトや、天体の運動を考察しケプラーの法則を導いたドイツのヨハネス・ケプラーも光は一瞬にして伝わると考えていました。しかし、光速が無限大である証拠は何もなかったのです。

 世界で初めて光速を測定したのはパリ天文台で働いていたデンマークの天文学者オーレ・クリステンセン・レーマーとされています。レーマーは1676年11月12日に光速の測定結果を発表し、光速を秒速22万キロメートルと求めたと言われています。ところが、レーマーは実際には光速は測定していませんし、光速の値を発表したわけでもありません。どうしてレーマーが世界で初めて光速を測定したことなったのでしょうか。

 レーマーがパリ天文台にやってきたのは1672年のことでした。このとき天文台台長を務めていたのはイタリアの天文学者ジョバンニ・カッシーニです。カッシーニは木星の衛星や土星の衛星を観測し天体観測で多大なる功績を残しています。

レーマーとカッシーニ
レーマー(左)とカッシーニ(右)

 当時はヨーロッパ諸国が海外進出を果たした大航海時代が終盤に差し掛かった頃でした。多くの航路が発見されて盛んに貿易が行われるようになると、船の安全な航行が求められるようになりました。そのためには正確な航海図と船舶が周囲に何もない洋上で自分の位置を正確に把握する方法が必要でした。

 位置は南北の位置を表す緯度と東西の位置を表す経度で求めることができます。南北の位置を表す緯度は水平線と太陽や北極星のなす角度から比較的簡単に求めることができます。一方、東西の位置を表す経度を求めるためには基準の位置と自分が存在する位置の時差を求める必要があります。当時は正確な時計がなかったため経度を正確に求めることはできませんでした。そのため、いかにして正確に時間を測るかが正確な航海図を作るための重要な鍵となっていました。

 ヨーロッパの多くの国が自国の天文台を基準にした海図を作成しようと経度を正確に求める方法の発明に懸賞金をかけていました。例えば、ガリレオは 1610 年に自作の望遠鏡で木星の4つの衛星を発見していますが、これらの衛星の食(衛星が木星の裏側に隠れる現象)が規則的に起こることから、世界のどこからでも確認できる標準の時計として使えると考え経度を求める方法を提案しています。しかし、この方法は詳細な観測データを必要としました。ガリレオの提案した方法はカッシーニによって実現されましたが、この方法は衛星の観測に時間がかかるという欠点がありました。この方法は地上で経度を求める目的には使えましたが、洋上で経度を求める目的には使えませんでした。

 レーマーはカッシーニのもとで木星の衛星の動きを調べていました。衛星イオの食が始まる時刻を調べているうちに、地球が木星の近くに存在しているときと遠くに存在しているときでは食が始まる時刻が22分ずれていることに気が付きました。

木星の衛星イオの食のずれ
木星の衛星イオの食のずれ

 レーマーはイオの公転周期は一定であることからこの現象は観測によるものと考えました。そして、光が一瞬で伝わるのであれば地球と木星の距離に関係なく食が始まるのは同時刻になるはずであり、この時間のずれは光が木星から地球に伝わる時間に関係しており、光の速度は無限大ではなく有限であるに違いないと結論づけました。そしてこの理論を1676年11月22日にパリの王立科学アカデミーで発表しました。

 実はこの現象はカッシーニも気がついていましたが、光速は無限大と考えていたため時刻のずれの原因を突き止めることはできていませんでした。そして、カッシーニはレーマーの光速は有限の値であるという主張を決して認めませんでした。そのため、レーマーの結論はフランスでは認められませんでした。一方、イギリスのニュートンやオランダの物理学者で後に光の波動説を唱えたクリティアーン・ホイヘンスはレーマーの考えを支持しました。

 さて一般にレーマーが求めた光速は秒速約 22 万キロメートルとされていますが、レーマーの興味は光速が有限であることを証明することだったようで値までは求めませんでした。レーマーの理論から光速の値を求めたのはホイヘンスです。

 ホイヘンスはレーマーが観測した食のずれの時間 22 分(1320 秒)と当時知られていた地球の公転の直径2億 9120 万キロメートルから、光速を秒速 22 万キロメートルと求めました。この値が実際の光速の値である秒速 30 万キロメートルからかけ離れているのは、地球の公転の直径や食が遅れる時間が不正確だったからです。現在、知られているそれらの値(ずれ:16 分 36 秒= 996 秒、公転直径:2億 9920 万キロメートル)を使って計算すると光速は秒速30万キロメートルに近い値になります。

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