トイレットペーパーが消えた日(1973年11月2日 昭和48年)
新型コロナウイルスの影響でいろいろな噂が飛び交い、いろいろなものが品薄となりました。マスクは本当に品薄になりましたが、紙が不足するという噂が流れて、不安を感じた消費者がトイレットペーパーなど紙類製品の買い占めに走りました。コンビニやスーパーの棚から紙製商品が消えました。
マスクが紙でできているから紙不足になるというデマがSNSなどで広く流布されたのが原因ですが、そもそもマスクの原料の不織布はポリプロピレンなどの化学繊維です。政府・業界団体・販売店が「在庫は十分あるので冷静な行動を」と呼びかける事態となりました。
実は似たようなことが1973年11月2日に起こりました。関西の各地区のスーパーマーケットにトイレットペーパーを買おうとした客が殺到し、怪我人が出るなどして、警察官が出動する騒ぎが起きたのです。
この騒動は前日の1日も発生していました。大阪のあるスーパーマーケットがトイレットペーパーの安売りのチラシを出していました。そのチラシには「紙がなくなる」と書いてあったそうです。開店時には数百人の客の行列ができ、あっという間にトイレットペーパーが売り切れてしまいました。その後に来店した客がトイレットペーパーがないことにクレームをつけたため、スーパーマーケットは高級品のトイレットペーパーを並べたそうです。高い価格だったにもかかわらず、高級トイレットペーパーも全て売り切れてしまいました。安売りのトイレットペーパーが売り切れ、価格が高騰したというニュースが流れると、この騒ぎは止まらなくなりました。
しかし、実際にはトイレットペーパーの生産には問題なく、在庫も十分にありました。買い占めが起こらなければ、トイレットペーパーがなくなるような事態にはならなかったはずなのです。
この背景には10月6日に始まった4次中東戦争による第一次オイルショックがありました。OPECに加盟しているアラブの産油国が、原油生産の削減と原油価格の引き上げを宣言しました。原油が高騰による品不足や物価上昇の懸念が広がり、原油をアラブ諸国から輸入している先進諸国はオイルショックに陥りました。10月19日には、日本政府が原油価格の値上げを受けて、紙の節約を呼びかけていました。このニュースが流れると、10月下旬には紙不足となるという噂が流れはじめました。
これによってトイレットペーパーを買いだめをする人が急増し、実際に店頭からトイレットペーパーが消えてしまいました。消費者の不安は募るばかりで、さらに買いだめが進みました。また、買い占めや転売も起こりました。11月12日、政府は「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」に基づき、ティッシュペーパー、京花紙、ちり紙、トイレットペーパーの紙類4品目を特定物資に指定しました。
オイルショック以降、原油価格とは関係のない商品の便乗値上げも相次ぎました。1974年の国内の消費者物価指数は前年比23%も上昇し、「狂乱物価」とまで言われるようになりました。経済成長はマイナスに転じ、第二次世界大戦以降、続いてきた高度経済成長も終焉を迎えました。日本の経済成長率の低下はオイルショックがきっかけとなっていますが、その背景には高度成長時代の行き過ぎた金融緩和政策があったようです。日本の国債が大量に発行されるようになったのもこの頃からです。
1979年にイラン革命を機に第2次オイルショックが始まりましたが、国民は冷静に対応し、第一次オイルショックのときのような買いだめは発生しませんでした。
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