ノロウイルスによる食中毒は最近になって増えたのか
■ウイルス性食中毒は古くて新しい食中毒
食中毒とは、自然の毒物、化学物質、病原性の細菌などが混入した食品を食べることによって、中毒症状や急性の感染症を引き起こすことです。
食中毒には様々な種類がありますが、ノロウイルスやロタウイルスなど、ウイルスが原因のものをウイルス性食中毒といいます。
最近になって、ノロウイルスによる食中毒の事故のニュースが増えている印象があります。例えば、厚生労働省の食中毒事件一覧速報 2013年の食中毒の発生件数は1100件、そのうち細菌性のものが419件、ウイルス性のものが432件(ノロウイルスが416件)でした。一方、2000年の食中毒の発生件数は2247件、そのうち細菌性のものが1783件、ウイルス性のものが247件(小型球形ウイルスが245件)でした。
実際のところはウイルスが原因の食中毒は古くからあったはずですが、厚生労働省がウイルスを食中毒の原因物質と認定したのが1997年であったこととも関係します。1997年以前は、ウイルス性食中毒は原因不明の食中毒として扱われました。
ですから、厚生労働省の食中毒事件一覧速報の統計資料では、ウイルス性食中毒の発生件数が記載されたのは1998年からです。1997年にはウイルス性食中毒の発生件数は記載されていません。ウイルスが食中毒の原因として認定されていなかったからです。
このようにウイルス性食中毒は古くて新しい食中毒なのです。
■ノロウイルスによる食中毒が増えている理由は
ノロウイルスは1968年に米国のオハイオ州ノーウォークの小学校で発生した集団食中毒で初めて発見されました。このとき、発見されたウイルスはノーウォークウイルスと名付けられました。
1972年に電子顕微鏡でノーウォークウイルスの構造が明らかになり、ウイルスの形状から小型球ウイルスと名付けられました。それ以降、このウイルスとよく似たウイルスを原因とした食中毒事故が各地で報告されるようになり、総称としてノーウォーク様ウイルス、小型球形ウイルスと呼ばれるようになりました。
1990年に小型球形ウイルスの遺伝子の解析が行われ、カリシウイルス科の属に分類できることが判明しました。2002年の国際ウイルス命名委員会の提言と、パリで開催された第12回国際ウイルス学会において、ノーウォーク様ウイルスはノロウイルスと命名されました。つまり、ノロウイルスという言葉が初めて使われたのは2002年のことです。
また、最近になって、ノロウイルスを簡易に発見する方法が確立され、2007年から検査が行われるようになりました。2012年には3歳以下の乳幼児と65歳以上の老人に保険が適用されるようになり、普通の病院でも検査を受けることができるようになっています(対象外の人の検査は保険適用外で自費になります)。このような背景から、食中毒事故が発生した際に、ノロウイルスが発見されやすくなっています。
ひと昔前は、今年の風邪はお腹にくるなどという言い方があったように思います。発熱、嘔吐、下痢などを伴う風邪は、ノロウイルスだった可能性も否定できません。
ノロウイルスによる食中毒は最近になって増えたような印象があるのは
- ウイルス性食中毒が古くて新しい食中毒だったこと
- ノロウイルスという言葉が使われ始めたのは2002年だったこと
- ノロウイルスの簡易検査が行われるようになり、発見されやすくなったこと
などを理由として挙げることができるでしょう。
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