合成洗剤のソフト化とは ABSからLASへ
昭和30年代に入り電気洗濯機が普及し始めると、合成洗剤の需要が急激に伸び始めました。この頃、合成洗剤は高級アルコール系洗剤が主流でしたが石油系合成洗剤のABS(側鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)の性能が認められるようになるとABSが合成洗剤の主流になりました。
また、この頃から台所用洗剤など洗濯以外の目的に使われる合成洗剤が登場したこともあって合成洗剤の消費量はさらに増加しました。ABSは洗浄力が高く泡立ちが良いことが消費者の好みに合致したこともあって不動の地位を占めました。
ところがこの消費者にとって大人気のABSの消費量の増大は皮肉にも消費者の生活を脅かす環境問題を引き起こすことになりました。昭和35、36年頃から河川での洗剤の発泡が目立つようになり時間が経過しても泡が消えないことが社会問題となりました。
合成洗剤のソフト化とは ABSからLASへ
当時は家庭排水を直接河川などへ流す場合が多くABSが排水中に泡立って長時間滞留し河川や湖沼の水質汚濁や地下水の汚染問題を引き起こしたのです。また活性汚泥法という微生物の力を借りて排水処理を行う下水処理設備をもってしても対処できないことが分かりました。
この問題はアメリカを始めとする先進諸国で発生しその原因究明が行われました。調査の結果、アルキル基が枝分かれした構造をもつABSが化学的にも生物学的にも極めて安定で分解しにくい物質であることが分かりました。すなわち、ABSが排水中で分解されることなく河川などに長時間滞留してしまうことや、下水処理場で微生物による分解ができないことの原因が明らかになったのです。
ABSが環境問題を引き起こすことが分かると、ABSに替わる合成洗剤の開発が進められました。その結果、アルキル基が枝分かれしていないLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)が合成洗剤として使われるようになりました。LASは生分解性が良く下水処理場での微生物による分解ができる合成洗剤としてABSに取って変わりました。
LASTのように生分解性の良い合成洗剤をソフト型、ABSのように生分解性の悪い合成洗剤をハード型と呼びます。そしてハード型の合成洗剤からソフト型の合成洗剤に転換していくことを合成洗剤のソフト化と呼ばれました。日本では昭和40年頃から合成洗剤のソフト化が進められ、その数年後にはほとんどの合成洗剤がソフト型になりました。現在はJISの規定から生分解性の良い合成洗剤しか使うことができずABSは使用されていません。LASよりもさらに生分解性の良い合成洗剤も使われています。
さて、合成洗剤のソフト化により環境汚染の問題が解決できたと言えるでしょうか。ソフト型洗剤は生分解性が高いのは事実ですが、その分解には下水処理場での微生物分解が必要です。したがって排水を直接河川に流している場合には、ソフト型合成洗剤でも環境問題を引き起こします。
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