オゾン層からオゾンが落ちてこない理由
大気中の重い気体は落ちてくるのか
オゾンは原子量が16の酸素原子3つからなる分子なので分子量は48です。一方、空気の平均分子量はおよそ29ですから、オゾンと空気を比べるとオゾンの方が重たいことになります。
空気の主成分は窒素と酸素ですが、空気には空気の平均分子量より重たい気体もたくさん含まれています。例えば、二酸化炭素は分子量が44で空気の平均分子量より重い気体です。ですから、ボンベなどから二酸化炭素の気体をゆっくりと空気中に放出すると、二酸化炭素は下の方にたまります。
自然界において、二酸化炭素の発生源の多くは地表付近にあります。ですから、発生した二酸化炭素のほとんどが地表付近にたまりそうです。しかし、空気は対流しているため、二酸化炭素はすぐに拡散して空気と一様に混ざってしまいます。ですから、二酸化炭素は下に落ちてきません。
しかし、大気全体で考えると、二酸化炭素が空気中の他の気体よりも重い効果が出ています。大気中の二酸化炭素の濃度を高度ごとに調べてみると、どの高度でも二酸化炭素は大気中に一様に混ざっていますが、高度が高くなるほど、二酸化炭素の割合がだんだん少なくなります。これは二酸化炭素が他の気体に比べて重いためです。
オゾンが落ちてこない理由
オゾンの分子量も空気の平均分子量よりも大きいので、二酸化炭素と同様な理由で高度が高くなるとその割合が少なくなると考えられます。ところが大気中のオゾンの濃度を高度ごとに調べてみると、オゾンは成層圏の高度10~25 kmに最も多く存在し、それよりも上層や下層の高度では少なくなります。これは二酸化炭素の分布とは明らかに異なります。
実はオゾンの場合は重さだけに着目すると、オゾンが大気中にそのように分布する理由が見えてきません。このような分布になるのは、オゾンが成層圏の上部で生成し下部で分解しているからです。
成層圏の上部では、酸素分子が波長240 nm以下の紫外線で酸素原子となります(1)。その酸素原子が酸素分子と反応し、オゾンとなります(2)。Mは反応で生じるエネルギーを受け取る物質です。一般には大気中の窒素分子や酸素分子がその役割をします。
- O2 + hν → O + O (1)
- O+ O2 + M → O3 + M (2)
生成したオゾンは重たいので成層圏の下の方へ落ちていくことになりますが、成層圏の下部では、オゾンが波長320
nm以下の紫外線で酸素原子と酸素分子となります(3)。そして、生成した酸素原子がオゾンと反応し、酸素分子となります(4)。
オゾンの分解
- O3 + hν → O + O2 (3)
- O + O3 → 2O2 (4)
このように、オゾンは成層圏の上部で生成されますが、成層圏の下部で分解して酸素になります。
オゾン層はオゾンがたくさん存在していると同時に、オゾンが生成・分解しているところです。ですから、成層圏にあるオゾンは地表に落ちてきません。
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コメント
こんにちは
下記文章について、ちょっと気になったのですが、拡散という現象を考えると、重たいから下にあるというのはおかしくないでしょうか?
仮に地球表に月まで届くほどの巨大な試験管を建てて、二酸化炭素を入れて蓋をします。そうすると、全ての場所で二酸化炭素の濃度は同じにならないでしょうかね?
しかし、大気全体で考えると、二酸化炭素が空気中の他の気体よりも重い効果が出ています。大気中の二酸化炭素の濃度を高度ごとに調べてみると、どの高度でも二酸化炭素は大気中に一様に混ざっていますが、高度が高くなるほど、二酸化炭素の割合がだんだん少なくなります。これは二酸化炭素が他の気体に比べて重いためです。
投稿: とおり | 2015年1月23日 (金) 20時19分