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2008年10月 4日 (土)

サリドマイド

■光学異性体とは

 1815年、天然有機化合物が光を曲げるという面白い報告がありました。当時の科学者にとって、これは大変に興味のある報告であり、多くの科学者が光学活性の事実の証明を行うべく実験を繰 り返しました。しかしながら、この光学活性のデータと分子構造の関係を説明できた科学者はいませんでした。それから60年後の1874年、van't HoffとLe Belが、光学活性の現象と分子構造の 関係を明快に説明できる理論を発表しました。

 有機化合物の多くは、分子を構成する原子の種類や数が同じでも、原子同士の結合の仕方によって、構造や性質が異なる化合物ができます。それらを異性体といいますが、異性体のうち原子同士の結合の仕方は同じであるが、立体的な配置が異なるものを立体異性体といいます。そして、形は同じでも互いに重ね合わせることができない、 鏡像関係(一方が他方を鏡に写したような関係)にある立体異性体を鏡像異性体といいます。

 鏡像異性体は、左手と右手の関係のように、お互いに鏡に映したような関係になっており、重ね合わせても分子中の原子の配置が一致することはありません。こうした化合物を光学異性体ともいいます。

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 光学異性体は光をあてたときに光を曲げる性質があります。また鏡像関係にある分子のうち、一方は光を右に曲げ、他方は光を左に曲げるという面白い性質があります。光を右に曲げる分子を右旋性(dextrotatory, (+)またはdで示される)であると言い、左に曲がる試料は左旋性( levorotatory, (-)またはlで示される)であると言います。また、それぞれを d体、l体と言います。光学異性体は光を反対方向に同じだけ曲げます。

 光学異性体は、d 体とl 体が同じだけ含まれる混合物として存在します。d体とl体 は光を反対方向に同じだけ曲げますから、混合物の状態では光を曲げるという現象は観察されません。光学異性体は構造が鏡像関係にあることから、物理的性質のほとんどが同じであり、化学反応でも同じ性質を示します。このようなことから、d 体と l体を分離するのが容易ではありませんでした。また性質がほとんど同じであるということから、d体とl体が区別されることなく取り扱われてきたことが、過去しばしばありました。

■サリドマイドの薬害

 昭和30年代、サリドマイドという悲劇的な事件が起りました。サリドマイドとは薬の名前で旧西ドイツの製薬会社で開発製造された睡眠薬でした。サリドマイド事件とは、この睡眠薬を服用した妊婦から多数の奇形児が生まれたという悲劇的な薬害事件でした。

 なぜ、このような事件が 起ったかというと、サリドマイドが光学異性体であったからと言うことができます。サリドマイドはl体が睡眠作用をもつ物質であり、d体は奇形の原因となる物質だったのです。このことに気 がつかなかったため、世界中で悲劇的な事件が起きてしまいました。

 ただし、その後の研究で、サリドマイドは、l 体のみを投与しても、体内でl 体とd体の両方が生成することがわかっています。そのため、l 体が催眠作用のみを持ち、d体だけが催奇形性をもつのかについては疑問視されています。

■サリドマイドが見直される

 サリドマイドは催奇性があるため、使用が禁止されましたが、1965年にイスラエルでハンセン病の患者にサリドマイドを鎮痛剤として使ったところ、鎮痛剤としての効果の他に、皮膚病の改善が確認されることがわかりました。また、1989年には腫瘍壊死因子(TNF-α)の阻害作用があることも確認されています。TNF-αは関節リウマチ、骨粗しょう症、敗血症、糖尿病などにも関係しています。

 さらに、サリドマイドには血管の増殖を妨げる作用があります。この血管の増殖を妨げる作用が催奇形性の原因で、これが胎児の発育を阻害し、奇形を発生させます。しかし、成熟している大人に対しては重篤な影響はないということがわかっています。

 サリドマイドに血管の増殖を抑える作用があることから、増殖するガン細胞を抑える作用があるということがわかっています。癌への効果は未だ大きな期待がもてるほどの臨床試験結果は出ていないようですが、特に血液の癌とも呼ばれている多発性骨髄腫の治療効果があるということがわかってきたのです。その効果が見直され、サリドマイドが多発性骨髄腫の治療薬として製造販売が認可されることになったのです。

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コメント

こんばんは。
サリドマイドへの印象は強烈です。
まだまだ心配な気持ちはぬぐい切れませんが。
多発性骨髄腫の治療薬として役にたつのなら良いですね。

投稿: | 2008年10月 4日 (土) 18時50分

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