氷がとけると水面は上昇するか-アルキメデスの原理
アルキメデスの原理とは
アルキメデスの原理は紀元前215年に古代ギリシャのアルキメデスが発見した浮力に関する基本的な物理法則です。日常生活では、物体の浮き沈みや、空気中で重い物体が水中では軽々と持ち上げられるなどで体験することができます。
流体中もしくは流体に浮かんで静止している物体には、物体によっておしのけられた流体に働く重力に等しい上向きの力(浮力)が働き、その分だけ軽くなるというものです。
例えば、物体が水に浮かんでいるとき、その物体に働く浮力は水面下の物体の体積と同じ体積の水の重さに相当し、物体はその水の重さ分だけ軽くなります。このとき、物体の重さがおしのけられた水の重さより小さければ、その物体は水に浮きます。逆に大きければ沈みます。
密度が異なる物質でできている2つの物体は同じ重さでも体積が異なるため、2つの物体がおしのけた水の体積もしくは重さが異なります。このことから、アルキメデスの原理は物体の密度の違いの説明に使われることがよくあります。
氷が溶けると水面は上昇するのか
コップの中の水に浮いている10 gの氷がとけると、水面は上昇するでしょうか。
水は氷になると体積が1.1倍になります。つまり、10 g (10 cm3)の水が氷になると、10 g (11 cm3)の氷になります。
この氷をすっぽりと水の中に入れたと考えると、氷は11 cm3 の水をおしのけることになります。すなわち、氷によっておしのけられる水の重さは11 gです。氷は10 gですから、この氷は水に浮くことになります。
氷が受けている浮力は水面下にある氷がおしのけた水の重さに等しくなります。
ところで、物体の密度が流体の密度より小さいとき、物体は流体に浮くので、
物体の重さ(g)=流体の密度(g/cm3 )×物体の水面下の体積(cm3 )
が成り立ちます。氷は水よりも密度が小さく、水の密度が1.0 g/cm3 であることを考えると、氷の水面下の体積は
氷の水面下の体積(cm3 )=氷の重さ 10 (g)/水の密度 1.0 (g/cm3 )
ということになりますから、氷の水面下の体積(cm3 )は10 cm3 ということになります。つまり、氷は10 cm3 の水をおしのけていることになります。10 cm3 の水は10 gなので、水に浮いている氷が受けている浮力は10 gに相当する力ということになります。なお、水面上にある氷の体積は 1 cm3 ということになります。
さて、この氷がすべてとけるとどうなるでしょうか。氷の体積は11 cm3 ですが、とけてしまえば10 cm3 の水に戻ります。水面下で氷がおしのけている水の体積は10 cm3 ですから、水位は変化しないことになります。
よくテレビ番組で地球温暖化により氷山がとけて海面が大きくあがるという話が出てきますが、これは陸地にある氷山の話です。海に浮いている氷山がとけた場合、海面の高さは海水の比重の分だけ変わります。このあたりがきちんと区別されていない説明がよくあります。
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